近年注目を集める、水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」
イソマルトデキストリンというものをご存じでしょうか? イソマルトデキストリンは、コーンスターチなどのでん粉に酵素を作用させて作った、比較的新しい食物繊維で、食物繊維不足を補う目的で飲料や食品に幅広く配合されています。このページでは、近年注目されているイソマルトデキストリンの役割や機能について紹介していきます。
イソマルトデキストリンとは?
食物繊維は、水に溶ける「水溶性食物繊維」と水に溶けない「不溶性食物繊維」に大きく分けられますが、イソマルトデキストリンは、この水溶性食物繊維の一種です。イソマルトデキストリンは、人間の生理機能に広く関与していると考えられており、この成分を使った商品は、機能性表示食品として、多数の届出実績があります
イソマルトデキストリンは、どんな生理機能に関与しているの?
生理機能とは、基本的な生命活動に関連する機能です。イソマルトデキストリンは、食物として体内に取り込まれると、大腸まで到達する間に、さまざまな生理作用をもたらすことが報告されています。 代表的な作用は、腸内細菌のえさになりやすく、腸内フローラを良好な状態に保つことですが、それ以外にも、イソマルトデキストリンの分子構造の特徴によっておこる生理作用が、動物実験も含めていくつか報告されています。
以下がその生理作用の一例です。1)
・便通改善作用 ・食後血中中性脂肪値上昇抑制作用
・血糖値上昇抑制作用 ・下痢軽減作用
・免疫調節作用 ・脂質代謝改善作用
・腸内細菌叢改善作用
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イソマルトデキストリンは、どのように作用するの?
ここではイソマルトデキストリンがもたらす生理作用のうち、(1)便通改善作用、(2)食後血中中性脂肪値上昇抑制作用、(3)血糖値上昇抑制作用について、イソマルトデキストリンがどのように生体内で働くのかを見ていきましょう。
(1)便通改善作用
水溶性食物繊維であるイソマルトデキストリンは、口から摂取されると大腸に到達した後、腸内細菌のエサとなって分解、その代謝物として短鎖脂肪酸が生成されます。生成された短鎖脂肪酸は、腸管のなかで腸の蠕動運動を刺激するため、便通改善につながると考えられています。1)
(2)食後血中中性脂肪値上昇抑制作用
食事として摂取された脂質は、消化管内の脂肪分解酵素であるリパーゼによって脂肪酸とモノグリセリドに分解され、それらが「ミセル」と呼ばれる、胆汁酸の膜で覆われた粒子を形成し、消化管内を移動します。ただ、移動する過程でミセルが崩壊してしまうと、脂肪酸やモノグリセリドは小腸内に放出され、吸収されてしまいます。
イソマルトデキストリンは、このミセル内に共存することで、ミセルを崩壊しにくくし、ミセル崩壊による脂肪酸やモノグリセリドの放出を抑制します。さらにこのミセルはマイナスに帯電しているので、同じくマイナスに帯電している小腸への接近も抑制することが報告されています。1)
このように、イソマルトデキストリンは、脂肪を包むミセルを崩壊しにくくし、かつミセルが小腸へ近づくことを抑制するため、食後中性脂肪の上昇を抑えたり、脂肪の吸収を抑制することができると考えられています。
※イメージ図
【コラム】
●「中性脂肪」ってどんなもの?
血液中に溶け込んだ脂質のこと。「血中脂質」ともいい、主なものに中性脂肪やコレステロールがあります。
〈中性脂肪〉
食事でとった糖質・脂質・タンパク質は、エネルギーとして使われますが、使われずに余ったエネルギーは、肝臓に送られて中性脂肪が合成されます。中性脂肪は、血液によって全身に運ばれ、臓器や筋肉が動くためのエネルギー源として使われますが、このとき使われずに余ったものが、脂肪組織に蓄えられます。蓄えられた脂肪は、エネルギーの貯蔵庫としての役割や、皮下脂肪となって体温を保持する役割、衝撃から体を守るクッションの役割などを果たします。 2) 3)
〈コレステロール〉
細胞膜や各種ホルモン、胆汁酸などの原料となる成分です。一部は食事から取り入れられますが、主には糖や脂肪を使って肝臓などで合成されます。コレステロールには、余分なコレステロールを全身から回収し、肝臓へ戻す働きを持つ、善玉と呼ばれる「HDL-コレステロール」と、肝臓に蓄えられたコレステロールを全身へ運ぶ、悪玉と呼ばれる「LDL-コレステロール」の2種類があります。 2)
●血中脂質の異常「脂質異常症」は、なぜ恐い?
通常、血中脂質は一定の量に保たれるよう調節されていますが、体内で脂質がうまく処理されなかったり、食事からとる脂質が多すぎたりすると、血中脂質量が基準値から外れてしまいます。これを脂質異常症と言います。
脂質異常症は、自覚症状がないため放置されがちですが、確実に動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患のリスクを高めます。
脂質異常症には、次の3つのタイプがあります。
・血液中のLDL-コレステロールが増えすぎる「高LDLコレステロール血症」
コレステロールは動脈の壁の内部に入り込んで蓄積していきます。その結果、動脈壁は厚く硬くなり、血管の内側が次第に狭くなっていきます。
・HDL-コレステロールが少ない「低HDLコレステロール血症」
余分なコレステロールが十分に回収されず、たまったままになります。
・中性脂肪が増えすぎる「高中性脂肪血症」
中性脂肪自体は動脈硬化の直接の原因にはなりませんが、増えすぎるとLDL-コレステロール(悪玉)が増え、HDL-コレステロール(善玉)が減りやすくなることがわかっています。
動脈硬化に直接悪影響を及ぼすのはLDL-コレステロールですが、HDL-コレステロールと中性脂肪の異常も間接的に動脈硬化を促進します。 4)
●脂質異常症が起こる原因は?
脂質異常症が起こる原因の多くは、生活習慣、特に食生活と運動にあります。食べすぎや飲みすぎ、運動不足に加え、動物性脂肪やコレステロールの多い食品を好む人、脂質や糖分の多い高カロリー食に偏りがちの人は、脂質異常症になりやすいといえます。
また、タバコには中性脂肪を増やす作用や、善玉であるHDL-コレステロールを減らす作用などがあると知られています。さらに脂質異常症をはじめとする生活習慣病は、互いに影響し、複数の病気を合併しやすいため、高血圧や糖尿病などがあると、脂質異常症にもなりやすくなります。 4)
●成人男性は約5人に2人、成人女性は約4人に1人が要注意
日本人において、中性脂肪値が150mg/dLの基準値を越える割合は、成人男性で39.9%、成人女性で26.4%。成人男性は約5人に2人、成人女性は約4人に1人が基準値を上回っている計算になります。年代別の分布は、男性は30歳~59歳の働く世代で多く見られ、女性は50歳を超えると多くなる傾向が見られます。5)
※公益社団法人 日本人間ドック・予防医療学会2024年度版による中性脂肪(トリグリセリド)の空腹時基準値は30〜149mg/dL
(3)血糖値上昇抑制作用
炭水化物などの多糖類類は、胃や腸を通って、体内に吸収されやすいグルコース(ブドウ糖とも言われる単糖類)に分解されます。このグルコースに分解するための消化酵素が、マルターゼやイソマルターゼです。イソマルトデキストリンには、このマルターゼやイソマルターゼの働きを約10%阻害し、小腸からのグルコースの吸収を抑制する働きがあります。6)
実際に、糖質を多く含む食品とイソマルトデキストリンを同時に摂取した場合、血糖値の上昇が抑制されることが確認されています。 1)
このように、イソマルトデキストリンには、炭水化物を分解しにくくしたり、分解されたグルコースを吸収しにくくすることで、血糖値の上昇をおだやかにする効果もあると考えられています。
※イメージ図
【コラム】
● 「血糖値」とは?
血糖値は、血液中に含まれるグルコース濃度の値です。食事で摂取した炭水化物などは、消化吸収され、グルコースとなり血液に入ります。そのため血糖値は、健康な人でも食前と食後で変化します。通常であれば食前の値は約70~110mg/dLの範囲です。
血糖値が上昇すると、すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンの働きにより、グルコースが身体の細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。余分なグルコースはグリコーゲンへ変換され、血糖値を下げます。
一方、空腹になると血糖値が下がります。すると同じくすい臓から分泌されるホルモン「グルカゴン」などが働き、肝臓などに貯蔵されたグリコーゲンをグルコースに分解します。エネルギーとして使うことで血糖値を正常に戻します。
血糖値が必要以上に低くなることを低血糖と呼び、その際、血糖を上げようとするホルモンの作用で、ふるえや動悸の症状が起こります。ひどい場合は、脳へのエネルギー不足から意識低下や昏睡状態に至る場合があります。
反対に、血糖値が必要以上に高い状態を高血糖と呼びます。この状態が長く続くと、糖尿病や血管が障害を受け、ひいては動脈硬化を引き起こし、脳卒中などさまざまな病気を発症する危険が高まります。糖尿病はインスリンの分泌不足や、分泌されても十分に働かないことで、血糖値が慢性的に高くなる病気です。7)
● 成人の約5人に1人が「高血糖」!?
日本では、成人男性の21.6%、成人女性の20.1%、に高血糖の症状が見られます。血糖値を性別でみると、男女とも年齢を重ねるにつれて増加傾向にありますが、男性のほうが若干高い割合を示しています。
● 成人男性の約5人に1人、成人女性の約10人に1人が「糖尿病」!?
令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる」人の割合は、
成人男性 19.7%、成人女性 10.8%で、2009年以降でもっとも高い数値を示しました。5)
※この調査では、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cの測定値が6.5%以上(NGSP値)(平成23年まではHbA1cの測定値が6.1%以上(JDS値)、または糖尿病の治療を受けていると答えた人が、「糖尿病が強く疑われる」と判定される。