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緊張するとおなかが痛くなる?脳と腸の密接な関係

近年の研究で、脳の状態が腸に影響を及ぼし、逆に腸の状態も脳に影響を及ぼすことがわかってきています。また、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の分泌にも、腸内細菌のバランスが関与していることが科学的に解明されつつあります。ここでは、脳と腸の関係性について、解説していきます。

脳と腸の双方向の関係「脳腸相関」

例えば、緊張や不安などのストレスを脳が感じると、おなかが痛くなり便意を催したりすることがあります。逆に腸に病原菌が感染すると、脳の不安感が増したりすることも報告されています。このような、脳と腸の双方向的な関係を『脳腸相関(brain-gut interaction)』といいます。1)

腸内細菌を持たない無菌マウスを使った基礎研究では、無菌マウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べてストレスに対して過敏であることや、脳の神経系を成長させるための因子が少ないこと、また無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると、多動や不安行動が正常化することなどが報告されています。この結果からも、脳腸相関においては、病原菌だけでなく腸内に常在する細菌も、脳の機能に影響を及ぼすことが示唆されています。2)

※イメージ図

脳腸相関が関係しているかもしれない疾患、過敏性腸症候群「IBS」って?

過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)は、大腸に腫瘍や炎症などの疾患がないにも関わらず、腹痛や便秘・下痢などの症状を、慢性的に繰り返す疾患です。日本でも人口の約1~2割に見られ、決して珍しい病気ではありません。3)

ストレスが強くなると症状が悪化するという特徴から、ストレス関連疾患として知られていますが、なぜストレスによってIBSが悪化するのか、その原因は長い間不明でした。 現在も明確な原因はわかっていませんが、ストレスによって不安状態になると、脳からその刺激が腸に伝わり、腸の収縮運動が激しくなったり、腹痛などの痛みを感じやすい知覚過敏状態になったりすることから、症状がでてくると考えられています。4)

※イメージ図

腸内細菌が、脳と腸の悪循環にも影響を及ぼす?

IBS患者は、脳と腸の刺激反応が健常者よりも敏感な状態になるため、不安やストレスによる刺激が脳から腸へ伝わりやすく、その刺激に腸が過剰に反応し、痛みを感じ取りやすくなります(知覚過敏)。さらにこの刺激が腸から脳へも伝わり、より不安を招くことも確認されています。このようにIBSは脳腸相関の悪循環により起こっている可能性が考えられています。4)
また、感染性の腸炎をきっかけにIBSを発症するケースが見られることから、脳腸相関の悪循環を生み出す要因として、腸内細菌が大きく関与している可能性も検討されています。5)

幸せは腸からやってくる?

脳と腸の密接な関連性が明らかになるにつれて、腸内細菌と精神面との相関性も注目されています。 「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンは、脳内の神経伝達物質のひとつで、他の神経伝達物質であるドパミン(喜び、快楽などを感じる)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなどを感じる)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。6)このセロトニンの合成に、腸内細菌が関係していると言われています。 7)

腸で作られる幸せホルモンは脳には届かない

人間の体に存在するセロトニンの割合は、90%が小腸、8%が血小板中で、脳に存在するのは2%です。
このわずか2%が、人間の精神活動に大きく影響しています。

セロトニンは、そのほとんどが腸で作られます。腸で作られたセロトニンを直接脳に届けることはできません。脳に物質が運ばれるためには、血液脳関門というフィルターを通過する必要がありますが、セロトニンはこのフィルターを通過することができないためです。7)

幸せホルモンのもとを腸でつくり脳に届ける

ただ、腸で合成されたセロトニンが、脳のセロトニン合成に無関係というわけではありません。セロトニンの合成には、必須アミノ酸の一種「トリプトファン」という栄養素が必要ですが、トリプトファンは食品からしか摂取することができない物質です。

腸内細菌が、肉や魚、乳製品、大豆製品などに含まれるタンパク質を分解・合成し、トリプトファンを合成したり、脳でセロトニンを作る“もと”となる前駆物質を送ったり、セロトニンを合成するために必要なビタミンB6、ナイアシン、葉酸などのビタミンを合成したりします。
つまり、脳でのセロトニンを増やすためには、腸内細菌が働ける腸内環境を整えることも重要なのです。 7)

お腹の調子だけではなく、精神の安定や幸福感にも腸内細菌が関わっています。普段の暮らしの中でも改めて腸内環境を整えることを意識し、より幸せな生活を目指してみませんか?

【参考】

1) 小林 洋大 他: 化学と生物, 57(8): 472, 2019.
2) 須藤 信行: 腸内細菌学雑誌, 31: 23, 2017.
3)鳥居内科クリニック 鳥居 明.”過敏性腸症候群について”.日本大腸肛門病学会. January 19, 2022.
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=5
4) 福士 審: 日本消化器学会雑誌, 111(7): 1323, 2014.
5) 福土 審: 腸内細菌学雑誌, 32(1): 1, 2018.
6) 厚生労働省 e-ヘルスネット “健康用語辞典 セロトニン”
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html
7) 藤田 紘一郎: 心身健康科学, 8(2): 69, 2012.

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