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痔に効く漢方薬「乙字湯」ってどんな薬?

痔に効くとして、よく使われる漢方薬のひとつに「乙字湯(おつじとう)」があります。乙字湯は、大便が硬く、便秘の傾向がある方のなかでも、体力中等度以上の方のいぼ痔(痔核)やきれ痔(裂肛)、軽度の脱肛などに効果がある漢方薬です。このページでは、医療現場でもよく処方されている乙字湯の歴史について紹介します。

「乙字湯」は日本生まれの漢方薬

漢方薬というと、その多くは古代中国医学の中で生まれ、漢方医学の原典である「傷寒論(しょうかんろん)」や「金匱要略(きんきようりゃく)」などの書物を通して日本に伝えられたものです。1) ただ、中には、日本で独自の発展を遂げたものもあります。そのひとつが乙字湯です。乙字湯は江戸時代に日本で生まれており、その原典は、水戸藩の侍医だった原南陽という漢方医が記した「叢桂亭医事小言(そうけいていいじしょうげん)」という書物に見ることができます。2)

体力のある男性向けに考案された処方

南陽は、戦場での武士(体力のある男性)の痔を治すために乙字湯を考案したとされています。戦場で活用できる処方の2番目という意味で「乙」の字を使い、「乙字湯」と名付けました。ちなみに1番目の「甲字湯」は打撲傷や切り傷に利用される「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」という漢方薬の改良処方です。2)

江戸時代に生まれた初代乙字湯の処方

乙字湯の起源は、「傷寒論」に示されている「小柴胡湯(しょうさいことう)」とみられています。
小柴胡湯は、体力中等度の方の熱性疾患の病状に用いられていました。
江戸時代に生まれた初代乙字湯は、武士が戦場の野営などで、体を冷やしたための循環障害によって起こる痔疾を治す目的で考案された処方で、小柴胡湯から、急性熱性病に用いられる 「人参(当時は竹節人参)」と、気管支から痰を出しやすくする作用のある「半夏」を除いて、大腸などの下半身の熱を下し、寫下作用のある「大黄」と、解熱鎮痛作用や止血作用のある「升麻」を加えてつくられていました。2) 3)

明治時代には、いぼ痔に効果の高い改良処方へ

明治時代には、漢方医の浅田宗伯が、この初代乙字湯の生薬だった「生姜」、「大棗」を「当帰」に置き換え、いぼ痔(痔核)に対する効果を増強させた処方へ改良しました。これが現代に伝わる乙字湯です。当帰には、血を補い、血流を促す成分が含まれており、いぼ痔(痔核)の原因となるうっ血を改善する作用があります。3)
このように現代の乙字湯は、きれ痔(裂肛)の原因となる便秘を改善する生薬や、いぼ痔(痔核)の原因となるうっ血を改善する生薬、はれや化膿に効果がある生薬、鎮痛の効果が期待できる生薬などから構成されています。

乙字湯は、武士が戦場で用いる薬として誕生し、その後改良が加えられて現代のような、さまざまな痔に対処できる処方に進化しました。漢方薬の中でも数少ない日本発祥の漢方薬、乙字湯について理解を深め、上手に痔の対処に役立てていきましょう。

【参考】

1) 金 成俊: 基礎からの漢方薬 【医療用漢方製剤・構成生薬解説】 第4版, 薬事日報社
2) 滝野 行亮、植岡 博: 薬局製剤 漢方212方の使い方 改訂4版, じほう
3) 川添 和義: 図解 漢方処方のトリセツ 第2版, じほう

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