知ってるようでよく知らない、お灸の話。
お灸は古くから伝わる、東洋医学のひとつ。
お灸とは、もぐさを燃やし、熱でツボと呼ばれる皮膚上のポイントを刺激することにより、病気の症状や身体の不調を緩和する東洋医学の治療法です。
一般的にお灸に使われる“もぐさ”は、ヨモギの葉の裏の綿毛(毛茸と腺毛)を精製したものです。原料となるヨモギは日本全国に自生するキク科の多年草で、さまざまな薬効成分(健胃、利尿、解熱、止血等)が含まれています。
なかでもヨモギの有効成分として着目したいのがシネオール。ローズマリーやローリエなどの葉にも含まれているもので、もぐさを燃やしたときの爽やかですっきりとした独特の香りには、リラックス効果があるとも言われています。
お灸の歴史について。
お灸の起源は古く、2000年以上も前の前漢初期の「馬王堆漢墓医書」の中の「足臂十一脈灸経」にみられ、その後中国最古の医学書とされる「黄帝内経」に体系的にまとめられています。また、この時代にはほぼ現在の治療法が完成していたとも言われています。
お灸は仏教伝来と深く関係し、飛鳥時代に中国から日本へと伝えられました。また、日本で初めての医事制度が制定された大宝律令では、鍼灸が国家の医療として確立されています。奈良時代から鎌倉時代にかけては鍼よりも灸による治療がよく行われていたようです。平安時代に編纂された、日本に現存する最古の医学全書「医心方」では、全30巻のうち2巻は鍼灸について記載されています。
江戸時代中期には実証的東洋医学の全盛時代を迎え、ますます盛んとなったお灸の療法は、ヨーロッパでも“お灸の材料にはモグサ(Moxa)”と日本名で紹介されるほどでした。大正時代には、医学者の鍼灸研究の成果が多く発表され、自律神経と鍼灸治療の効果に着目した「求心性二重支配法則」は、現在でも支持されています。
2018年には、鍼灸や漢方薬などの伝統医療がWHO(世界保健機関)により、国際的に統一した基準で定められた疾病分類である「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(ICD)」に、伝統的な東洋医学の章が追加されています。
免疫機能や代謝機能を高めてくれると言われているお灸ですが、その効果のメカニズムは複雑で全てが解明されているわけではありません。それでも、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞した温度・触覚の受容体の研究により、今後はお灸のような温熱刺激の効果もより詳細に解明されていくことが期待されています。