洗いすぎや拭きすぎが痔を招く?おしりを綺麗にしすぎるリスク
肛門周囲の皮膚が荒れる原因として、おしりの拭きすぎや洗いすぎ、座りっぱなしの姿勢などが挙げられます。ではなぜこうした行動が肛門周囲の皮膚の悪化につながるのでしょう。
それぞれが重要な働きをする皮膚の「層」
私たちの皮膚は、表皮・真皮・皮下組織の3つの層から構成されており、各層には固有の機能があります。
最も外側となる表皮は0.1~0.2mm程度というとても薄い膜状の組織であり、外側から「角質層(かくしつそう)」、「顆粒層(かりゅうそう)」、「有棘層(ゆうきょくそう)」、「基底層(きていそう)」の4つの層に分かれています1)。そのなかでも一番外側にある角質層は、表面を皮脂膜という天然の保護膜に覆われており、身体からの水分蒸発を防ぐとともに、アレルゲンなど外部からの異物の侵入や物理的刺激を防ぐバリア機能も担っています2)。
おしりを清潔に保つ行為も、度が過ぎると悪化の原因に
排便後の不快感を無くすため、おしりをゴシゴシと拭きすぎると、摩擦により皮膚表面の角質層に傷がついてしまいます。また、石鹸やボディソープなどで洗いすぎたり、温水洗浄便座を強い水圧で、長時間、何度も使い過ぎたりすると、皮膚表面にある皮脂膜が流されてしまいます。おしりを清潔に保とうとする行為も、度が過ぎると皮膚にダメージを与えてしまうことになるのです。
バリア機能の低下で起きる「かゆみ」の悪循環
肛門周辺がこうした状態になると皮膚のバリア機能は低下し、外部からの異物の侵入や刺激を受けやすくなります。バリア機能の低下は、水分の蒸発にもつながるため、皮膚は乾燥し、かゆみが強くなったり、赤みが出るなどの症状が起こります。
また荒れた状態の皮膚に、便や粘液などが付着したり、ガス(おなら)が触れると、かゆみがさらに悪化するので、就寝中など無意識のうちに掻いてしまい、さらに皮膚を傷つけ、かゆみが増す悪循環に陥ることもあります3)。
「蒸れ」は大敵!座りっぱなしの姿勢も要注意
座りっぱなしの姿勢などにより肛門周囲が蒸れることも、バリア機能の低下につながります。
「蒸れる」というと、肌が湿っていて保湿されているように思われがちですが、水分が過剰な状態が続くと角質層はふやけて剥がれやすくなり、同時に皮膚の保湿成分が溶け出してしまいます。角質層が剥がれると皮膚からの水分蒸発も防げなくなるため、結果的に皮膚の乾燥に繋がってしまうのです。「蒸れる」という状態は、実は保湿成分が不足した乾燥状態なのです4),5)。
このように普段の何気ない行動が、肛門周囲の皮膚に悪い影響を及ぼしていることもあります。日常の中で拭きすぎ・洗いすぎ・座りすぎを避けるよう意識してみませんか?
【参考】
1)平尾 哲二: 日本香粧品学会誌, 37(2): 95, 2013
2)田上 八朗: アレルギー, 54(5): 445, 2005
3)日本大腸肛門病学会: おしりのかゆみについて
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=23
4)高岡駅南クリニック: 高岡在宅褥創研究会議事録「第41回 肛門周囲皮膚傷害:浸軟はドライスキン」, 2009
https://www.ekinan-clinic.com/download/435/
5)一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会: IADベストプラクティス, 2018